個人と法人でこんなに違う!減価償却の知られざる真実
資産を持つなら避けて通れない「減価償却」。これは、建物や設備など、長期にわたって使う資産の取得費用を一度に計上せず、少しずつ経費にする方法です。減価償却の方法は個人と法人で大きく異なり、適切に管理しないと税金対策に影響を及ぼします。今回は、個人と法人での減価償却の違いに加え、償却方法の種類やそれぞれのメリット・デメリットを詳しく見ていきましょう。
減価償却の仕組みとは?
減価償却とは、建物や機械設備などの資産の取得にかかった費用を、資産の使用年数(耐用年数)に合わせて少しずつ経費にしていく方法です。例えば、1,000万円で購入した建物を一度に経費にするのではなく、耐用年数に分割して、毎年一定の額を経費にします。これにより、支出の年数に沿って利益の増減を調整し、資産の価値の減少を考慮に入れた利益計算が可能となります。
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個人と法人で異なる減価償却の適用方法
減価償却には「強制償却」と「任意償却」があり、適用方法は個人と法人で異なります。
個人の場合:強制償却
個人事業主や個人名義で収益物件を所有する場合、減価償却は「強制償却」が適用されます。これは、計算で求められた減価償却費を必ず毎年経費として計上しなければならない方法です。所得税法の規定により、計算された減価償却費をそのまま経費に算入する義務があるため、自ら金額を調整することはできません。
法人の場合:任意償却
法人が適用する減価償却は「任意償却」で、法人税法で定められた上限(償却限度額)までであれば、好きな額を経費として計上できます。例えば、業績が良い年度には減価償却費を多く計上し、経費を増やして法人税を抑えることが可能です。逆に利益が少ない年には、減価償却費を少なめに計上して経費を抑え、利益を増やすという選択もできます。
強制償却と任意償却:仕組みとそれぞれのメリット・デメリット
強制償却
強制償却は、個人事業主が対象となる減価償却の方法で、耐用年数に基づいて毎年決まった金額を必ず費用計上しなければなりません。計算で求められた償却費の金額を、1円でも減らしたり増やしたりすることができないのが特徴です。
具体例
例えば、ある個人事業主が事業用の設備を100万円で購入したとしましょう。この設備の耐用年数が5年の場合、毎年20万円を減価償却費として計上する必要があります。
1年目から5年目まで、毎年20万円を必ず計上しなければならず、事業収支が良い年でも悪い年でも、調整できない点が強制償却の特徴です。例えば4年目に業績が不調でも、減価償却費を15万円に減らしたり、逆に償却しないという選択はできません。必ず20万円ずつ、5年間で償却を完了することになります。
強制償却のメリットとデメリット
- メリット:毎年の費用が一定となるため、将来の費用計画がしやすい。
- デメリット:事業状況に応じた柔軟な費用調整ができず、個人事業主の収支に影響を及ぼしやすい。
任意償却
任意償却は、法人が対象となる減価償却の方法で、耐用年数に基づく償却限度額の範囲内で、償却費を費用として計上するかどうかを法人が自由に決められます。償却をしない~限度額いっぱいまで自由に設定できる点が特徴です。
具体例
ある法人が500万円の社用車を購入し、耐用年数を5年とした場合を考えます。この場合、1年あたりの償却限度額は100万円となりますが、法人は状況に応じて0円~100万円の範囲で費用計上できます。
たとえば、業績が良い年には100万円を経費に計上し、利益を抑えることで法人税の支払いを軽減し、逆に業績が悪い年には償却を抑えて収益を確保するといった調整が可能です。また、必要に応じて3年目に50万円、4年目に70万円、5年目に80万円など、限度額内であれば毎年異なる金額で費用計上できます。
任意償却のメリットとデメリット
- メリット:会社の収益状況に応じて柔軟に調整が可能で、税務対策にも活用できる。
- デメリット:償却を後回しにすると簿価が高く残り、資産の売却時に売却益が増えやすくなるため、長期的な計画が必要です。
実際の不動産の減価償却例
個人の不動産減価償却
例えば、個人事業主が賃貸アパートを3,000万円で購入したとしましょう。このアパートは、木造で法定耐用年数が22年とされているため、定額法で毎年の減価償却費を計算します。
計算の流れ:
- 取得費用:3,000万円
- 耐用年数:22年
- 減価償却費の計算式:取得費用 ÷ 耐用年数 = 3,000万円 ÷ 22年 = 約136.4万円(1年あたりの減価償却費)
つまり、毎年約136.4万円が経費として計上され、所得から差し引かれることになります。
実際の賃貸収入との関係:
たとえば、このアパートの年間賃貸収入が200万円だとすると、以下のように所得を計算できます。
- 年間賃貸収入:200万円
- 経費(減価償却費):136.4万円
- 差し引き後の所得:200万円 – 136.4万円 = 63.6万円
この結果、課税対象となる所得が200万円ではなく63.6万円まで抑えられ、税負担が軽減されることになります。
法人の不動産減価償却
次に、法人が賃貸用マンションを購入したケースを考えます。マンションの購入額は8,000万円で、鉄筋コンクリート造で法定耐用年数は47年とされています。法人の場合、任意償却が適用されるため、収益状況に応じて減価償却費の計上を調整することが可能です。
減価償却費の計算:
- 取得費用:8,000万円
- 耐用年数:47年
- 減価償却費の計算式:取得費用 ÷ 耐用年数 = 8,000万円 ÷ 47年 ≈ 約170.2万円
年間の減価償却限度額は約170.2万円ですが、法人ではこの金額を限度として、例えば0円から170.2万円の間で柔軟に費用計上ができます。
収益状況による計上例:
- 収益が高い年
- ある年に年間収益が500万円だった場合、この年は減価償却費をフルに計上して170.2万円を経費にし、課税所得を抑えます。
- 収益:500万円 – 減価償却費:170.2万円 = 課税所得:329.8万円
- 収益が低い年
- 次の年に収益が200万円に減少した場合、減価償却費を少なくして50万円だけ計上することができます。これにより、損益を抑えて財務状況を安定させることが可能です。
- 収益:200万円 – 減価償却費:50万円 = 課税所得:150万円
このように、法人では業績に応じて減価償却費を調整でき、利益のブレを抑えつつ、長期的な税務戦略を構築することができます。
減価償却を活用する際の注意点
個人の場合:税負担の固定化に注意
個人事業主の場合、減価償却費を必ず計上しなければならないため、毎年の税負担が固定化します。収益が少なくても一定額の経費として計上されるため、手持ち資金の管理には注意が必要です。
法人の場合:計画的な管理が必要
法人では経費の調整が可能なため、計画的に減価償却費を管理することが大切です。減価償却費を調整しながら資産運用をすることで、利益と経費のバランスを保ちつつ、税金の支払いをコントロールできます。
まとめ:減価償却の活用で賢い節税対策を
個人と法人では、減価償却の適用方法が異なるため、資産をどのように管理するかによって税負担が大きく変わります。個人事業主にとっては強制償却により、年ごとの安定した計算が可能ですが、法人の場合は柔軟に経費計上ができ、収益の状況に合わせた節税対策が可能です。資産の耐用年数に合わせて計画的に減価償却を活用し、長期的な税負担を抑える工夫をしましょう。
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